ラビット・ボンド
 店を追い出された私たちは、フラフラと海に向かって砂浜を歩いていた。前を歩く私に、1メートルくらい間隔をあけてトラオがついてきてる。
 ビーチサンダルにまとわりつく砂が心地悪くて、リゾートに来てるんだと実感する。

 あんなに賑わってたのに、海辺は通りすがりが数人いるだけで静かだった。

 併設されてる宿に泊まってるんだから、解散してそのまま部屋に帰るのが正しい。そもそもそれがいいと思ってあの店で飲み始めたんだし。
 でも、私は部屋に帰らなかった。
 なぜなら――。

「ぜんぜん飲み足りな~い」

 もっと酒をくれ。もっともっと酔っぱらいたい。
 私の悪い癖だ。分かってる。分かってるけど酔うとどうしてもこうなってしまう。

「トラオ明日早い!? てかなんでここにいるんだっけ!? 仕事!?」

 振り返って、トラオに聞く。街灯が少し届いてる程度で、うすぼんやりとしか見えなかった。

「うん、仕事。……もう終わったけど」

「まだイケるってこと!? よし飲もう!」

 そんなことを言いつつ、この辺に遅くまでやってる店があるのか全く知らない。見当すらつかないまま、言葉だけが先走る。

「じゃあさ――」

 時間でも確認したのか、トラオの顔がスマホの明かりで一瞬だけ照らされた。

「俺の部屋くる? こっから近いし、売店もまだ開いてる」
 
「え、行く」

「ふはっ。くるのかよ」

 即答する私にトラオが笑う。自分から誘ったくせに、ひどい男だ。
 
 
 こっち、と方向転換するトラオについていく。今度は私が後ろを歩く番。

「ね、ちょっと待って!」

 数歩歩いたところで、私は足を止めた。
 
 一つだけ、確認しなきゃいけないことがある。
 ナンパっちゃナンパだったけど、そういうつもりで部屋に誘ったんじゃないことは分かる。なんとなく、カンで。
 だとしても、聞いておかないと進めない。もしそうなら部屋に行くのもナシだから。
 でもでも、聞くのは信念に反してしまう。

「リカちゃん?」

 トラオの声に、信念を曲げる決心をする。
 ごめんなさい。どこぞの神様に心の中で懺悔する。

「念のため、一応、聞いておきたいんだけど……」
  
 不思議そうに近寄ってくるトラオに、思い切って問いかけた。

「み、美月ちゃんと付き合ってないんだよね……?」
< 15 / 50 >

この作品をシェア

pagetop