ラビット・ボンド
――否定されたから、今、私はこの部屋にいるわけで。
あの後――。
否定するだけでいいのに爆笑までされたので、悪態をつきながら私はトラオの部屋までついていった。
売店で買い込んだ菓子と酒をおしゃれなテーブルに広げて、ソファにふんぞり返り、二次会という名のダル絡みを楽しむ。それから、力尽きて爆睡。
ああ。思い出すだけで頭が痛い。
「私、帰るね」
トイレから戻ってきたトラオに言う。
まだ眠そうだけど、顔でも洗ったのか一応目は覚めたらしい。
「もう帰んの? 朝飯食わね?」
呑気だ。1ミリも反省してないらしい。
私は首をブンブン振って、無理ですオーラをまとった。
無理。無理です。
いや、普通にどっからどう見ても橘虎雄だし。喋るのだって緊張する。昨日はどうかしてた。酒って怖い。
今更だけど、ボロボロなのも恥ずかしくなってきた。
「じゃあ連絡先教えてよ」
これは、どういう……?
一瞬の間で私は考える。
もしやそういうルールがあったりするのだろうか。適当に飲んでもいいけど相手の連絡先は抑えとけ、とか事務所に言われてたりして。
……そんな訳ないか。
普通にナンパの続きだろう。挨拶みたいな、興味本位とか暇つぶしとか、そんなもん。
そんなノリで芸能人の連絡先もっとくの、怖すぎる!
「やめとこう!」
脳内で結論を出した私は、しっかりと断る。
「もしまた会ったらそんとき教えるね! じゃ!」
……もう一生会うことはないだろうけど。
「ほんと、いろいろすみませんでした!」
ぺこり頭を下げて、私はトラオの部屋をあとにした。
去り際に見たトラオは、相変わらずヘラヘラと笑っていた。
ホテルを出た私は迷うことなく宿への帰路に着く。昨夜は何も考えずに歩いてたけど、トラオのホテルは、思ってたよりも私の宿に近かった。
今日も晴天で気持ちがいい。街はすでに、元気に賑わっていた。
私は元気とまでは言えないけど、運良く二日酔いにはなってない。
お腹もすいてきたので、通り道の屋台で朝食を買う。
何食べようか選ぶ頃には、もうすでに昨夜の出来事に現実味がなくなっていた。
思い返してみても、ウソみたいで笑えてくる。幻覚でも見たのかもしれない。
ただ、美月ちゃんと付き合ってないとトラオから聞いたことだけは鮮明で。
その事実が、じんわりと胸に広がっていた。