ラビット・ボンド
CHAPTER 02
来た。最悪。私じゃありませんように。思い過ごしであれ。
ディスプレイを見たまま、意識を後ろに向ける。
願い空しく、部長の足音が私の後ろで止まった。良い話のときは席まで来ないから、100%悪い話だろう。
「西田さん、悪いんだけど――」
ほら、やっぱり……。
私は、しぶしぶ振り向いた。
バースデー旅行から帰国して、2週間が過ぎた。
東京は梅雨入りして、じめじめの毎日だ。リゾートのカラッとした空気が恋しい。
あの後2日はあそこにいたけど、もちろんトラオと鉢合わせることはなかった。そもそもトラオがいつまでいたのかすら知らない。
正直、滞在中は常にちょっとだけソワソワしてた。非日常オブ非日常な事件だったから仕方ないと思う。
でも帰国してからは、考えることも少なくなった。
リゾートで浮ついた気持ちも数日で落ち着いて、今はもうすっかり日常に戻っている。
会社員である私は、オフィスでパソコンとにらめっこしたり、上司から理不尽な指示を言いつけられたりの日常を過ごしていた。
「分かりました、調整してみます」
部長の頼みに二つ返事で答えたのは、別に良い人だからじゃない。いつもの私なら一度ごねる。最終的に受け入れるしかなくても、ごねる。
ごねなかったのは、時間がないから。
今日、美月ちゃんの映画の試写会に行く私は、午後休を予定してる。もう上がる時間だから、とにかく早く帰りたかった。
「あ、本当? ありがとう、助かる~」
ごねられると思っていたのか、部長はやや拍子抜け気味だった。
美月ちゃんに感謝しろよ!
去って行く背中に心の中で捨て台詞を言う。
早く帰りたいのもあるけど、機嫌が良いのもまた事実だった。
当然だ。なんてったって半年ぶりの美月ちゃん。謎の緊張と興奮に包まれるこの感覚も久々だ。
今日の完成披露試写会は、舞台挨拶も付いている。一足先に映画も観られて、生で美月ちゃんを拝める超お得イベントだ。
美月ちゃん、どんな衣装着てくるかな。予告にあったあのシーンはどういう流れなんだろう。美月ちゃんは何を話してくれるんだろう。
わくわくが止まらない。
頭の中ではカラフルな花びらが舞っていた。部長の頼みくらい余裕で聞けてしまう。
イベントは夕方からだから、一度家に帰って、化粧なおして……って考えるだけで楽しい。
朝からじとじと雨が降ってるのに、こんなにゴキゲンにしてくれるなんて、美月ちゃんは本当にすごいなと改めて実感する。
私は緩む頬をなんとか引き締めて、そそくさと帰り支度を始めた。
ディスプレイを見たまま、意識を後ろに向ける。
願い空しく、部長の足音が私の後ろで止まった。良い話のときは席まで来ないから、100%悪い話だろう。
「西田さん、悪いんだけど――」
ほら、やっぱり……。
私は、しぶしぶ振り向いた。
バースデー旅行から帰国して、2週間が過ぎた。
東京は梅雨入りして、じめじめの毎日だ。リゾートのカラッとした空気が恋しい。
あの後2日はあそこにいたけど、もちろんトラオと鉢合わせることはなかった。そもそもトラオがいつまでいたのかすら知らない。
正直、滞在中は常にちょっとだけソワソワしてた。非日常オブ非日常な事件だったから仕方ないと思う。
でも帰国してからは、考えることも少なくなった。
リゾートで浮ついた気持ちも数日で落ち着いて、今はもうすっかり日常に戻っている。
会社員である私は、オフィスでパソコンとにらめっこしたり、上司から理不尽な指示を言いつけられたりの日常を過ごしていた。
「分かりました、調整してみます」
部長の頼みに二つ返事で答えたのは、別に良い人だからじゃない。いつもの私なら一度ごねる。最終的に受け入れるしかなくても、ごねる。
ごねなかったのは、時間がないから。
今日、美月ちゃんの映画の試写会に行く私は、午後休を予定してる。もう上がる時間だから、とにかく早く帰りたかった。
「あ、本当? ありがとう、助かる~」
ごねられると思っていたのか、部長はやや拍子抜け気味だった。
美月ちゃんに感謝しろよ!
去って行く背中に心の中で捨て台詞を言う。
早く帰りたいのもあるけど、機嫌が良いのもまた事実だった。
当然だ。なんてったって半年ぶりの美月ちゃん。謎の緊張と興奮に包まれるこの感覚も久々だ。
今日の完成披露試写会は、舞台挨拶も付いている。一足先に映画も観られて、生で美月ちゃんを拝める超お得イベントだ。
美月ちゃん、どんな衣装着てくるかな。予告にあったあのシーンはどういう流れなんだろう。美月ちゃんは何を話してくれるんだろう。
わくわくが止まらない。
頭の中ではカラフルな花びらが舞っていた。部長の頼みくらい余裕で聞けてしまう。
イベントは夕方からだから、一度家に帰って、化粧なおして……って考えるだけで楽しい。
朝からじとじと雨が降ってるのに、こんなにゴキゲンにしてくれるなんて、美月ちゃんは本当にすごいなと改めて実感する。
私は緩む頬をなんとか引き締めて、そそくさと帰り支度を始めた。