ラビット・ボンド
 雨上がりの歩道を、二人並んで歩き始める。
 この大通りを道なりに進めば、駅に着く。会場を出遅れたから、ファンたちの波はひいていた。
 でも車は通るし、ちらほら人通りもある。

 私は、気が気じゃなかった。

「なんか普通に歩いてるけど、バレたりしないの?」

「ぜんっぜん。余裕でバレない」

 そんなもんか。
 気付いてないだけで、もしかしたら私も芸能人とすれ違ったりしてるのかもしれない。

 だがしかし。
 ご本人様はそうやって当たり前に過ごしてるから慣れっこだろうけど、私はやっぱりソワソワする。
 気付かれて騒がれて……みたいなの、考えただけで面倒だ。

 勝手に想像して勝手にげんなりしてると、トラオが口を開いた。

「ね、さっき出てくるとき、なんで怖い顔してたの?」

「怖い顔?」

「怖いって言うか、険しい、みたいな?」

 隣から笑い声がきこえて、視線を向ける。思い出し笑いでもしてるらしい。
 まったく失礼な話だ。出てくるときなんて、世界一幸せな自信あるのに。
 私は、じとーっとにらんでから進行方向に目を戻した。

「映画おもしろくなかったとか?」
 
 聞かれて、映画の内容を思い返す。
 試写会だから、もちろん今日が初見だった。
 地方都市を舞台にした、女の子たちの心温まるヒューマンストーリー。
 2番手だから美月ちゃんの出番も多かったし、話自体も割と好きだった。
 ……と、思う。多分。
 
 本当に申し訳ないといつも思うけど、舞台挨拶で頭と心がいっぱいいっぱいになってしまう。上映中はほとんどうわの空だ。今日は舞台挨拶後に上映だったから、なおさらそう。
 おもしろかったかどうかすら即答できないし、だから、それが理由じゃない。
 
 険しかった自覚はないけど、心当たりはある。

「我慢してたからかも」

「我慢? 何を?」

「泣かないようにと、ニヤけないように」

 最近はもう、美月ちゃんに会える機会が少なすぎて反射で泣いてしまうから。何の涙か分からない。次いつ会える? って寂しさもあるし、美月ちゃんの笑顔を見てホッとしたような気持ちもある。
 とにかく泣きそうで、でもあんなとこで急に泣いたら怖すぎるから我慢してた。

 それから、今日は、何といっても――。
 
 美月ちゃんと目が合った、と、思う。多分。いや、絶対。
 運良く前の席だったから、勘違いするはずない。自分に言い聞かせる。
 目が合ったなんて、そりゃあ気を抜けばニヤけてしまうわけで。それも怖すぎるから我慢してた。
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