ラビット・ボンド
 勢いそのままに差し出すと、トラオが首を傾げた。
 
「ん? なに?」
 
「名刺」

「めいし?」

「トラオと違って私はググっても情報出ないし、なんかフェアじゃないかなって」

 ……思ったんだけども。
 よく考えたら逆に怖いかもしれない。急に何アピールだよって感じかもしれない。
 
「ぷはっ」
 
 今更どう引っ込めようか考える私をよそに、トラオが吹きだした。腹立たしいほど、ゲラゲラと。
 
 そんな笑わなくてもよくない!?
 カチンときた私は名刺をひっこめようとしたけど、間髪入れずトラオに奪われてしまう。まだ笑ってるくせに、器用な男だ。

「……西田里香。webデザイナー?」

 満足したのか、笑うのをやめたトラオが言う。この薄明りの中、名刺の文字を読んでいるらしい。

「なんかカッケーね」

「まあ、一応?」

 褒められて、ちょっとだけ鼻が高い。たいした仕事は全然してないけど。
 喜んだところで、明日も仕事なのを思い出した。はあ。

「じゃ、私そろそろ帰るね」

「ん。気をつけて」

 手を振るトラオは、なんだか普通の男の子みたい。まあ、普通に男の子なんだけど。
 帽子とマスクで顔がみえないし、暗くてスタイルもよくわかんない。普通に、かわいい男の子だ。

 軽く手を振り返して、私は駅を目指した。
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