ラビット・ボンド


 ユイコ宅を出て、小一時間。
 トラオ指定の店を前に、少しだけ足踏みをする。

 キレイ目なビルの地下に入るこの店は……居酒屋?

 表から見える感じ、小料理屋というほど敷居は高くなさそうでホッとする。ギリ、居酒屋って呼べそうな雰囲気だ。
 
 正直、どんな店を指定されるのかビビっていた。派手なウワサが多いトラオのことだ。ザ・芸能人! 的な店に呼ばれてもおかしくはない。むしろイメージ通りとも言える。

 指定されてからネットで店舗情報を確認したけど、場所と料理屋ということしか分からなかった。これが、隠れ家レストランってやつなのかもしれない。

 トラオは既に着いてるらしい。先に入ってる、と数分前に連絡を受けていた。
 ごくり。軽く息を飲み込んで、足を進める。


 うわ! 橘虎雄だ!
 
 通された個室にトラオがいて、私は何故かびっくりした。いや、待ち合わせしてたんだから、トラオがいるのは当然なんだけど。

 帽子もマスクもしてなくて、照明もちゃんとあって、顔がハッキリ見えたからかもしれない。この間は全然見えなかったから、トラオの顔を生で見るのは初対面ぶりだ。
 それに、さっきユイコとの話題に出てきた芸能人って感覚があって、なんだか不思議な気分だった。
 
「あ、きたきた。おつかれぇー」

 謎にびっくりする私をよそに、トラオは開口一番からノリが軽い。間延びした声に、良い意味で気が抜ける。
 
 でも、まだ肩の力は抜けきらない。
 挨拶は何が正解……? なんか、どういうふうに会話してたんだっけ……?
 
「ど、どーも?」

 語尾にハテナをつけて呟くと、ぷは、と笑われた。
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