ラビット・ボンド
「ね、もしかして、行きつけの店ってやつ?」

 なんとなく、そう思う。
 こういう店では当然なのかもしれないけど、トラオに対する店員さんの態度も普通だったし、よく来てるのかなと思った。
 なんだろう……トラオがいることに違和感ない感じ。

「え? そう……なのかなあ。何回来たか覚えてないくらいには来たことある」

「へぇ、行きつけてるじゃん。なんかカッコいいね」

「俺はいつでもカッコいいけどね」

 トラオが片眉を上げてキメてくる。すごい自信だ。キラーンという効果音まで脳内に響いてきた。

 無視していると、店員さんの声が聞こえてくる。お待ちかねの、ビールの登場だ。

「やば、天才!」

 キンキンに冷えたグラスに、並々とつがれたビール。
 雨には降られなかったけど、今日も今日とて梅雨らしくジメジメしていた。店までの道中、もう絶対ビールがうまい! と切望しながら歩いてたから、輝いて見える。天才以外の言葉が出ない。
 
「はい、カンパイ!」

 私は乾杯もそこそこに、勢いよくグラスに口付けた。


 お互いあーだこーだ言いながら料理を注文して、一息つく。
 
 メニューを見た感じ、普段と桁違いとまではいかなかった。とは言っても数割増しだけど。お腹もすいてるし、メニュー見ただけでも美味しそうで、ワクワクしている。
 食べ物の好みが合っていたのは幸いだった。サシ飲みでそこがズレたら微妙すぎる。まあ、トラオがホントのことを言っていたかどうかは分からない。気を使われてる可能性もあるけど、それならそれで、甘えておこう。
 
 旅先でのアレはノーカンとして、初めましてのサシ飲みだ。私たちは、お互いのことをほとんど知らない。
 ナンパとかその場のノリ以外で、よく知らない人とのサシ飲みは久々……いや、初めてかもしれない。まるで記憶になかった。

「ぶっちゃけ無理かもなーって思ってた」

 お通しの小鉢をつまみながら、トラオが言う。

「何が?」

「今日。こうやってリカちゃんと飲むの」
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