ラビット・ボンド
「こんなおいしいもん、覚えちゃったらどうすんの!?」

 ひとしきり騒いでから、グラスを手に取って喉を潤した。
 ビールとの相性も最高だから恐ろしい。マジでどうしてくれるんだ。

「んな大げさな」

 トラオは笑うけど、大げさではない。
 
 学生時代からがむしゃらに美月ちゃんのアイドル活動を追ってた私は、なるべく他のことにお金を使わないようにして生きてきた。その筆頭が食費だ。
 酒は飲む。その代わり、とにかく安く済ませるのがモットーだった。
 余裕が出てきた今でもその感覚は消えないし、なんでもおいしく食べられるのは長所だと思っている。

「――それで? なんかあった?」

 促されて、話が途中だったことを思い出す。
 今日何してたか、話してたんだっけ。料理に夢中で、すっかり忘れていた。

「ああ、全然それだけ。友達んちで一生喋ってただけで、特になんもない」

「ふーん?」

 なんだろう、意味ありげな相槌だ。
 何か問題でも? と視線で訴える。

「いや、タイミング良かったって言ってたから。飲みたかった理由でもあんのかなって」

 なるほど、察しが良くていらっしゃる。
 キホンいつでも飲みたいけど、確かに今日は飲みたい気分だった。
  
「んー、何ていうか、理由ってほどじゃないけど。飲みながらダラダラ喋りたい気分? みたいな? そんな感じ」

 我ながら、言語化がヘタすぎる。
 
「なに、喋り足りなかったとか?」
 
 どんだけ喋りたいんだ、と書かれた顔でトラオが言う。
 さっき一生喋ってたって言っちゃったから、気持ちは分かるけど。

「そうじゃなくて、ダラダラってのがポイントなわけですよ」

「ダラダラ?」

「そ。こうやって、どうでもいい話をしたりしなかったりして、飲みながらダラダラすんの。それがいいんじゃん」

 ピンときてなさそうな表情に、苦笑する。
 このダラダラがかけがえのない時間だったと気付いたのはここ数年だし、トラオにはまだ早かったかもしれない。
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