ラビット・ボンド
 私がトラオくらいの頃は、ユイコとダラダラ飲みしてばっかりだった気がする。さすがに、かけがえのない時間とまでは思ってなかったけど、当時だって普通に楽しんでいた。
 
 懐古しても仕方ないけど、楽しかったな……。
 じんわり懐かしみながら、ビールを味わう。
 
 ふと思うことあって、トラオに視線を向けた。同じようにグラスを持って、ビールを飲んでいる。
 
 ――あれ? そもそも、その楽しさが伝わってない?
 
「もしかして、ダラダラ飲むことない?」

 私は、思ったことをそのまま口にした。
 トラオが首を傾げる。考えてくれてるんだろう。
 
「んー、ダラダラってよりはワイワイする感じ? が多いけど……。たまに友達とサシ飲みするときはダラダラしてんのかも」
  
「それそれ! 多分それ!」

 友達とのサシ飲みなんて、99%ダラダラ飲みだし。
 
 でもよく考えたら、確かにトラオは派手にワイワイしてるイメージか、と納得する。
 今日は私に合わせてくれたみたいだし、普段はこういうとこじゃなくて、暗くて照明がビカビカしてて騒がしい店で飲んでるのかもしれない。知らんけど。

「あのね、リカちゃん」

 少しトーンの落ちた声で、トラオに呼ばれる。急に雰囲気がかわるから、びっくりした。
 何ごと? と思いつつ、続く言葉を待つ。

「リカちゃんは忘れてるかもだけど、俺、橘虎雄なんだよね」

 ぽかーん。
 この男は何を言っているんだ。意味が分からない。

「いや、忘れてませんけど」

 マジレスする私をみて、トラオが吹きだした。
 見えなくても分かる。アホ面をしているに違いない。

「うん。覚えてくれてて良かった」

 まだ笑いを含みながら、トラオが言う。
 いまだに意図がつかみきれない。
 
「――じゃあさ、橘虎雄のサシ飲み相手の女の子が、ダラダラすると思う?」
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