ラビット・ボンド
 ……ぅん?
 数秒の沈黙。脳内でトラオの言葉を繰り返して、思考する。
 
 それから、私は、爆笑した。

「うはっ。ちょっと待ってウケる。ごめんごめん」
 
 ぶち当たった結論が、ツボすぎる。
 
 手を叩いてはしゃぐ私に、トラオが肩をすくめる。それも可笑しくて、余計に笑えた。
 一杯目のグラスがそろそろ空きそうだし、イイ感じにエンジンかかってきたのかもしれない。
 
「わかってくれた?」

 トラオが口を尖らせる。拗ねるそぶりは、さすがにかわいい。
 
「うん、ホントごめんと思ってる。……ふふっ」

 一応謝るが、笑いがこらえきれない。トラオに、そして自分に、ウケてしまった。
 
 そう、トラオが示唆したように、橘虎雄のサシ飲み相手の女の子は、基本的にダラダラしない。なぜなら、橘虎雄を狙ってるから。
 ワンチャンなのか、そういうフレンドなのか、あるいは真っすぐなものなのか。各々の狙いがあるだろうけど、橘虎雄のサシ飲み相手の皆さんは、色っぽい何かを狙っている。そうなると、ダラダラするわけがない。
 トラオの交友関係を知らない私が言い切れるもんでもないけど、ご本人様が示唆するんだから合ってるんだと思う。

 だから、トラオはピンときてなかった。
 ――ダラダラ飲みそのものにではなく、目の前の女が『ダラダラ飲みたい』と言い放ったことに。
 
「そもそも最初があんなんだったし? 全然いいんだけど……」

 あんなん、を思い出すと胃が痛い。旅先でのことはいっそ記憶から消してほしい。

「なんていうか、びっくりした」

 そりゃそうだろう、と多少反省する。
 本気かどうかはさておいて、仮にも口説かれてる立場だった。それはまあ、ちょっと忘れてた。
 橘虎雄としてのプライドに、かすり傷くらいはつけてしまったかもしれない。超不本意だけど。

 仕方ない、橘虎雄の名誉を守ってやろうじゃんか!
 
 意気込んだ私は、諭すように弁明を始めた。
< 37 / 50 >

この作品をシェア

pagetop