ラビット・ボンド
 トラオ曰く、ダラダラ飲みたいと言われたことに衝撃を受けたのは事実らしい。別に平気だけど、わざと大げさに拗ねてみたら私が必死にフォローするもんだから、とりあえずそのままにしておいたんだと。
 
 マジで気付かなかった。プロの役者、おそるべし。
 悔しさを洗い流すように、運ばれてきたビールを喉に流し込む。はやいとこ酔っぱらって忘れてやる。

「ていうかトラオ、ハイボールなんだ」

 ふと、トラオのグラスが目に入る。
 私はもちろんビールだけど、トラオは2杯目からハイボールにしていた。初対面のときは私と一緒に夜通しビールだったから、少し意外に思う。

「ん。今はちょっと、そういうの気にする時期」

 体型気にするならハイボールがいいって聞くし、いろいろと気を使っているらしい。表に出る仕事は大変だ。
 同じように、美月ちゃんもきっといろいろ気を使ってるんだろうな……と、想いを飛ばす。
 
 ……美月ちゃんは、どのお酒を、どんなふうに飲むんだろう。
 たまに美月ちゃんからお酒の話題が出ると、いつも考える。お酒を飲むようになったと話してくれたことはあっても、詳細を聞いたことがないから。
 まあ、考えたところで全く想像できないんだけど。なにせ美月ちゃんは、アルコールとは対照的なアイドルだった。

「ふっ」

 トラオが軽く吹き出して、クスクス笑っている。人がせっかくアイドル時代の美月ちゃんに思いを馳せているというのに。
 
「ねえ、まだ笑ってんの?」

「だって……日本一の色男がツボすぎて」

 いや本当に、自分の発言とは思えないほど意味不明だ。ちゃんと考えて物を言わねば、と反省する。

「ハイハイ忘れて忘れて! そういえばトラオは!? 今日何してたの!?」

 話題を変えたくて、私は無理やりハンドルを切った。キーッと音が聞こえてきそうな急カーブだ。

「俺?」
 
 トラオが口を開く。
 私のヘタクソなごまかし方に若干口角が上がっているが、答えてくれるようだ。

「んとね、今日は――」

「ごめん! ストップ!」

 すんでのところでハッとした私は、大きく手を振ってトラオの返答を遮った。
 自分で聞いておいて何たる仕打ち。トラオも目を丸くして口をつぐんでいる。

 よく考えたら、先に言わなきゃいけないことがあった。
 ちゃんと考えて物を言わねば、と反省したそばからコレだから情けない。今度こそ反省しよう。
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