ラビット・ボンド
「聞いておいてなんなんだけど……仕事の話だったら、詳細は言わないでほしい」

 私の言葉に、トラオが首を傾げる。怪訝そうな表情だ。

「もちろん喋っちゃダメなことをペラペラ話すとは思ってないよ。けど、平気なことでも、あんまり知りたくなくて……」

「全然良いんだけど、なんで?」

 ごもっともな質問。理由を聞かれるとは思ったけど、うまく説明できるか分からない。
 私は、脳内を整理しながら、ゆっくりとひとつひとつ喋り出した。

「全部美月ちゃんに繋げて考えちゃいそうだから、知りたくない。トラオがそんなつもりなくても、私が勝手にね。場所とか時間とか、そこにいる誰かとか? なんでもいいんだけど、何かトラオと美月ちゃんの話に共通点があったら、絶対考える気がする。もしかして共演すんのかな……とか。逆に明らかに違うって思ったら、今撮ってるやつにトラオは出ないんだなって思うし。別に当たりハズレはどうでもよくて、とにかく考えるのが嫌すぎる。でも、絶対考える」

 考えたくなくても、考える。あることないこと全部美月ちゃんに結び付けて。
 そんなのめちゃくちゃしんどいと思う。今のまま、美月ちゃんからの発信だけを受け取っていたい。
 ――付き合ってるかどうか、トラオに聞いてしまった前例はあるけど。それはそれ、これはこれ。

 ふう。息を吐いて、ビールとつまみで休憩する。つい、ダラダラ喋りすぎてしまった。
 トラオの相槌は、なんていうか心地が良い。不思議と話したくなる感じ。うまく話せた気はしないけど。

「意味わかんないよね?」

 自嘲気味に笑ってみせる。話してみたものの、伝えきれた自信は無い。

「なんとなく?」

 トラオの片眉が上がる。語尾にハテナがついていて……これはどっち? と疑問に思う。
 まあでも、どっちでもいいか。分かってても分かってなくても、仕事のことはあんまり話さないでほしいという気持ちさえ伝われば。

「すっごい喋っちゃったけど、全部ただのワガママだから」

 自己本位なことを言っている自覚はあった。
 仕事の話は聞きたくない! なんて、ワガママプリンセスにも程がある。残念ながら私はプリンセスではないから、きちんと下からお願いしよう。
 
「ごめんけど、頭の片隅にでも置いといてもらえると――」
 
「――なんで?」
 
 助かります、と続くはずの言葉が、トラオの声にかき消された。
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