ラビット・ボンド
 当時の私は箱庭から出たばっかりのできたてほやほや赤ん坊で、今よりももっと精神状態がひどかった。
 会見で共演者と会話してるのを目撃するだけでショックを受けた。
 
 映画そのものはかわいらしいラブコメで、ド直球なシーンもなく、私に優しい世界だった。アイドル卒業後、こういうものから始めてくれるんだと安心できた。
 
 なのに、ホッとする暇もなく。オフショット、番宣、メイキング。映画の外にはしんどい世界が広がっていた。
 見ないという選択肢はない。何故なら美月ちゃんを見たいから。血反吐を吐いてでも私は見る。
 
 ダブル主演ということは、美月ちゃんの隣には当たり前に橘虎雄がいた。
 隣にいるだけじゃ飽き足らず、あの男はヘラヘラと馴れ馴れしく……コノヤロー! と思わざるを得ない。
 普通に仲良く喋っているだけでも、地獄のような精神状態の私には刺激が強すぎた。
 
 ダメージを負う私を置いてけぼりにして、トラミミコンビは盛り上がった。
 盛り上がるどころか、本当に付き合ってる!? なんてウワサまで出回り始めた。意味が分からない。
 いや、分からなくはない。
 愛らしいお顔でちゃきちゃきしてる美月ちゃんと、チャラチャラ呑気なイケメン橘虎雄。二人の掛け合いはおもしろく、映画のキャラクターとのギャップも良い味を出してる。
 シンプルにお似合いなんだと思う。
 
 でも分からない。分かりたくない。
 美月ちゃんがコイツと付き合うなんて、絶対絶対あり得ない!
 
 そんな鬱々とした気持ちをどうもできずに、テレビの前で爆発したことや酒に飲まれたことは数知れず。声をかけてきた男と片っ端からワンチャン・ツーチャン・スリーチャン。
 私は、ひたすら荒れに荒れていた。
 
 それでも、舞台挨拶に行けば天使のような美月ちゃんがそこにいて。
 どんなにダメージを受けても世界で一番好きだったし、今もずっと好きでいる。
 
 そんな、ジェットコースターな日々から一年。
 懐かしいのと同時に、思い出しダメージを受ける。古傷が開いてしまった。

 ああ、しんど……。
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