ラビット・ボンド
 さすがに私も強くなったけど、トラミミはちょっと強すぎる。よく耐え抜いたとあの頃の自分をほめてあげたい。
 労いの気持ちから、瓶ビールを一気に飲みほした。

「もう一本飲む?」

 様子をみてたのか、店のおばちゃんが瓶ビール片手にやってきた。手を伸ばしてありがたく受けとる。
 店内には客がぽつぽついるだけだし、今夜は私が最上客かもしれない。

 そういえば海外旅行に来てたんだった。動揺しすぎて忘れかけてた。
 ツーショットからのフラッシュバック。こんなもん、飲まないとやってらんない。
 勢いよくビールを飲む私に、おばちゃんの視線が突き刺さる。

「あんた、たくさん飲むのはいいけど気を付けなさいよ」
 
「はーい、わかってるわかってる」

 お互い、なんとなくの英語で意思疎通をする。
 
 おばちゃんの言わんとしていることは分かってる。
 こんなオープンスペースで日本人の女が一人でべろべろになるなんて危なっかしい。
 割と派手だからか軽々しいオーラが出てるのか、私は声をかけられやすいタイプだ。おばちゃんにもそう見えてるんだろう。
 まあ、気分次第で軽々しくついていくのも事実だけど。

「気を付けるけど、しつこい奴きたら助けてねえ」

 27年も生きてればいろんな技を身につける。旅先での貴重品管理はしっかりするし、気のいいおばちゃんに甘えることだってできる。
 
 仕方ないな……と頷きながら店の奥に戻るおばちゃんを見送って、新しいビールを流し込んだ。
 夜はまだまだこれからだ。


 
「キレイだね、どっから来たの?」

 ふと、英語で声をかけられる。さっき店に入ってきた数人連れのうち一人が寄ってきたらしい。
 おばちゃんに言われたそばからこれで、ちょっとだけ笑える。良い時間帯になってきたってことかもしれない。

「日本」
 
「へえ、一人で? 俺らと飲もうよ」
 
 嫌ですオーラを出しながら首を横に振る。申し訳ないけど気が乗らない。

「じゃあ二人で飲む? 大通りの方に良い店知ってるんだ」

 残念。嫌ですオーラが通用しないっぽい。
 
 オーラを放つことを早々に諦めて、店内に目を向けた。視線を送るとすぐにおばちゃんが来てくれる。
 現地の言葉らしく、何言ってるか分からないけど、追い払ってくれたことは分かった。
 
 昨日来たばっかの私だって良い店知ってるし。
 海の側でビールを飲めて、気のいいおばちゃんがいるこの店を、私はだいぶ気に入った。
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