ラビット・ボンド
「――ド平日にごめんねぇ」
この前連れてきてもらった店に着くと、私の顔を見るなりトラオが眉を下げた。
平気、の意味を込めて首を横に振る。
ていうか――。
「そんな曜日感覚あるんだ」
地味に感心していると、なにそれ、とトラオが笑う。
「なんか無さそうじゃん。超勝手なイメージでごめんけど」
「さっすがリカちゃん。わかってんじゃん」
何がさすがなのかは謎だが、褒められてるっぽいので良しとする。
「普段はそんな無いけど、リカちゃんに連絡するときは考えてる」
……なるほど。
思い返せば、この前誘われたのは土曜だった。名刺も渡したことだし、私が平日週5勤務の会社員だと見当つけての所業だったに違いない。
分かってはいたけど、デキる男よ。これこそさすがだ。
「酒はどうする? 飲む?」
メニューを開いてすぐ、トラオに聞かれる。
飲む気マンマンだったからこの店を希望したわけで、意外な質問に拍子抜けした。
察するに、気を遣ってくれてのことだろう。
今度はもちもちアイス抹茶味を食べるって話もしたし、飲み屋と言えどアルコール必須ってこともない。いくら私がのんべえだと知ってても、平日ド真ん中から酒を飲むかは分からない。
本当に気遣い屋さんだ。
「全然飲みます!」
平日ド真ん中でも普通に酒を飲む私は、元気いっぱいそう答えた。
「明日は在宅だから、今日は飲める日なんだよね」
一通り注文を終えて、口を開く。
「在宅?」
「そ。家で仕事するから、朝結構余裕ある」
気遣い屋さんのトラオには、情報提供するのが一番良い気がした。
ただでさえ平日週5勤務会社員の実情なんて知らないだろうし、そもそもそんなの十人十色だ。私のライフスタイルを話すのが手っ取り早い。
ぶっちゃけそこまで気を遣わなくても良いけど、なんとなくトラオはそういう性分にみえる。新星チャラ男の称号は伊達じゃない。
「そっか……そういうのもあるか」
「ホントは毎日在宅が良いけど、残念ながら週2で出勤してる」