ラビット・ボンド
 そう? と首を傾げる。
 たしかにゲームはあんまりしないけど、動画は観ないこともない。

「家で仕事するとき適当に動画流したりするんだよね。ガヤガヤしてる方が好きで」

 トラオお気に入りのゲーム動画は、仕事中ときどき耳に入る小話にクスっと笑える感じだった。まあ、観たってよりは聴いたってのが正しいかもしれない。

「それに、今はもう余生だから」

「余生?」

 うんうん、と大げさに頷く。自分の顔は見えないけど、遠い目をしているに違いない。

「アイドルの美月ちゃんを追ってた頃が現役だとして、今は余生みたいなもん。めちゃくちゃのんびりしてる」

 数か月に一度の新曲。握手会や撮影会、それからライブツアー。ほぼ毎日SNSの更新があったり、動画があがったり。美月ちゃんを追いかけるだけでいっぱいいっぱいだった。
 それに比べると、今はだいぶ落ち着いている。ぶっちゃけ最初は寂しかったけど、今はもう、これはこれで良い余生だと思っている。

「だから、ちょっと気になったのとか、人から聞いたのとか、気軽に手出してる」

「ふーん、そういうもん?」

 いまいちピンときてなさそうな相槌が返ってくる。

「じゃあ俺はずっと余生かも。何かに特別ハマるとかなかったし」

 なるほど、今をときめく若手俳優が余生か……。

「すんごい忙しそうな余生じゃん」

 私が趣味の話として言い出したんだけど、どう考えてもトラオに余生は似つかわしくない。

「案外のんびりしてたよ? 今はリカちゃん追うので忙しいけど」

 少しだけ口角をあげたトラオが、視線を合わせてくる。
 
 この男、隙あらば口説いてくるじゃん。それもまた絶妙な軽さで。
 連絡先を聞いてきたときに“重たい話じゃない”と言っていたことも相まって、さらっと聞き流せる。でも、悪い気はしない。というか普通に気分はいい。
 さすがだ……と謎に感心しつつ、ぐいっとビールを飲み干した。
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