ラビット・ボンド
「ううん、気のせいじゃない。合ってる」

 どうやら言う気になったようだ。
 アイスを口に入れてから、もう一度トラオに視線を移した。喋れないので、何? という顔をつくる。

「ごめん、ちょっとだけ仕事の話する」

「仕事?」

「仕事……っていうか俺のスケジュール?」

 ほう。さっぱり分からん。

「来月ほぼ地方ロケ入ってて、こっちいないんだよね」

「へぇ~大変そう」

 ザ・他人事な返事。
 決してどうでもいいとかではなく、違う世界すぎて想像がつかなかった。

「うん、大変だと思う。リカちゃんに会えないから」

 トラオがわざとらしく子犬のような顔をみせる。

 なるほど、そういうことか。次会うのは一ヶ月以上あとになる、という報告だ。
 連絡先を交換してから2週間。それで2回も飲んでるから、一ヶ月も空けば長いのかもしれない。
 いや一ヶ月なんてすぐじゃんと思ってしまうのは、大人になった証拠だろうか。
 
「どうしても言っておきたくて……でも今日しか時間とれないし。平日どうかなって思ったけど、会えて良かった」

 にぃっと上げた口角とは裏腹に、まっすぐな瞳が私に向けられる。
 やっぱトラオっていい顔してんな~。

 でも、分からないっちゃ分からない。どうしても言いたいか? と思ってしまう。

「ふはっ。わざわざ言うほどのことか? って思ってるでしょ」

 トラオが吹きだす。
 何故バレた。やはり魔術師!?

「俺もねぇ、言うかどうか迷った。でもさぁ――」

 タメ息をひとつ。眉尻を下げて、困ったような呆れたような表情だ。
 続く言葉が想像できなくて、私は伺うように首を傾げた。
 
「何も言わずに一ヶ月も空けたりしたら、飽きた判定されそうじゃん」

 言われて、想像してみる。
 トラオは普段から連絡してくるわけじゃない。もちろん私もしない。
 今のところ、連絡をとるのはこういう突発的な飲みの誘いだけだった。
 東京にいないということは飲みに行けない。つまり、トラオからの音沙汰がなくなるというわけだ。

 ……なるほど。図星すぎて笑いが込み上げてきた。
< 49 / 50 >

この作品をシェア

pagetop