空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
やがて社内の空気に、ゆるやかな昼の気配が滲み始めた。
誰かが小さく「お昼に行ってきます」と声をかけて休憩に向かう。ざわめきがわずかに緩むのを感じながら、仄香も無言でパソコンをスリープモードへ切り替えて立ち上がった。
時刻はちょうど正午。
仄香は周囲に目を向けることもなく、足音を立てないようにフロアを抜ける。社外への動線を辿り、ビルの裏手にある小さな休憩スペースへ向かった。
そこは人の視線が届きにくく、営業部やカウンター担当の社員たちが来ることはほとんどない場所だ。昼の光だけが斜めから落ちる、ひっそりとした空気が漂っている。
ベンチに腰を下ろし、肩から掛けていたバッグをそっと膝の上に置く。
そこでようやく、背筋に入っていた力が抜けた。呼吸を整えてから、仄香はバッグの内ポケットに指を伸ばす。
取り出したのは、花の指輪を閉じ込めた──手作りの栞だった。
光をほとんど反射しないひっそりとしたプラスチックは、掌に乗せただけで、心のどこかが静かに脈打つ。
栞に重なるように浮かんだ顔を思い出し、ふっと仄香の表情が綻んだ。
(拓ちゃん……)
幼い頃、ただ一人だけ、仄香に優しくしてくれる少年がいた。
美人で目立つ姉や、彼女の影響で仄香を馬鹿にする周囲の視線とはまったく違う、ありのままの仄香を受け入れてくれた少年。
彼だけは、いつも大きな笑顔で仄香を迎えてくれた。