空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
加賀美拓翔──「仄香は泣き虫だけど、笑顔が一番きれい」と言ってくれた少年。仄香が初めて、淡い恋心を抱いた相手。
彼の家は当時住んでいた家の近くの団地にあり、父子家庭だった。
当時の仄香には一応、社長令嬢という肩書があった。対して拓翔は、父と二人で暮らす自動車整備士の家庭の子ども。
姉はそんな彼を「小汚い」と見下し、母も交流を快く思わなかった。それでも仄香は拓翔のそばにいる時間が大好きで、いつも彼の後ろを追いかけていた。
時には彼の父が営む整備工場に遊びに行き、三人で大きなおにぎりを頬張りながら笑い合ったこともある。形は不格好で、塩加減も大雑把だったのに、不思議と世界で一番おいしく感じられた。
拓翔は飛行機が大好きで、将来はパイロットになることを夢見ていた。
その大きな夢を、仄香は尊敬と憧れを込めて応援していた。子どもながらに彼の未来を心から信じて、夢を叶える拓翔のそばにいる未来を描いていた。
けれど、その未来は突然途切れてしまった。
仄香の父の事故死と同時に、拓翔とは離れ離れになったのだ。孤独と絶望に押し潰されそうになり、仄香は何時間も泣き続けた。
そのとき、拓翔はそっと手を差し伸べ、小さな花の指輪を仄香の手に置いた。
摘んだばかりの花で作られた、手作りの指輪。不器用に歪んだその一輪に、拓翔の誠実な想いと、あたたかな温もりが宿っていた。
『仄香』
名前を呼ぶ拓翔の顔には、いつもの爛々とした笑顔が浮かんでいた。けれどその瞳には、こらえきれない涙がうっすらと滲んでいた。
『おれ、将来絶対にパイロットになる。そんでその制服を着て、仄香のこと迎えにいくから』