空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
中の一角に掛けてあった一枚を手に取り、肌着の上からしっかりとアイロンのかけられたシャツを羽織る。
喉元までボタンを留め、濃紺のジャケットに腕を通す──そうした出社へ向けた日々のルーティンをこなすうちに、意識が静かに切り替わっていく。
最後に襟元を軽く整え、鏡の前に立つ。
そこにいるのは、愛しい女に翻弄されていた男の影はない。にやけの残る面影はすでに消え、仄香が憧れてくれた“王子様”の姿をきちんと取り戻していた。
身なりと意識を整え終えた拓翔は、そのままリビングへ入った。
キッチンに立ち、簡単な朝食を手際よく準備していく。やがてコーヒーの香りが部屋にやわらかく広がった頃、仄香が慌てた様子で姿を現した。
「ご、ごめんなさい…!私、つい二度寝しちゃって……っ」
見ればパジャマのまま、髪もあちこち跳ねた状態で立っている。掛け違えたボタンの隙間からは、胸元にうっすらと残る赤い痕がのぞいていた。
昨夜の余韻を纏ったままのその姿はあまりに無防備で、それ以上に艶めいて見えてしまう。そのせいで、せっかく整えたはずの気持ちが緩みかけた。
(……勘弁してくれ)
込み上げたものを無理やり押さえ込み、何でもない顔で笑みを作る。
「無理させたのは俺なんだし、気にするな。なんならもう少し寝ててもいいんだぞ?」
そう言うと、仄香は顔を赤らめてうつむき、パジャマの裾をきゅっと握りしめたまま小さく首を振った。
「やだ……拓ちゃんのこと、ちゃんと見送りたいもん……」
トドメの一言に、ズドンと心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走る。
「……頼むから、あんまり可愛いこと言わないでくれ……」
「え?」
聞き返され、軽く咳払いをしてごまかす。
「なんでもない。見送ってくれるの、嬉しいよ」
それ以上追求されないよう、拓翔は仄香の背にそっと手を添え、椅子に座らせた。