空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜

 暗に里穂の存在を示唆された瞬間、胃のあたりに鈍い不快感が広がったが、拓翔は表情を崩さなかった。

「……ハラスメント、ですか。具体的にはどのような内容でしょうか」

「彼女は精神的なショックを受け、乗務に支障が出ている。ここに、心療内科の診断書も提出されている。君との婚約を一方的に破棄され、その際、別の女性と組んで彼女を追い詰めた……という主張だそうだ」

 部長は声を荒らげることなく、淡々と一通の報告書を拓翔の前へ差し出した。

「これが事実であれば、安全運航にも関わる重大な問題だ。職場環境にも悪影響が出る」

 そこに並ぶ文章は、里穂の視点で都合よく組み立てられたものだった。

「君の私生活に踏み込むつもりはない。だが、同じ職場の人間をここまで追い詰め、仕事に支障が出ているという報告がある以上、組織としては放置できない。……このままでは、君を次の育成ラインに乗せる話も見直さざるを得ない」

 育成ラインから外される。それはパイロットとしての将来に大きく影を落とす通告だった。それでも依然として動じない拓翔の反応を見極めるように、部長は眼鏡の奥の目を細めた。

「……円満に解決するつもりはないのか。彼女は君が自らの非を認め、誠実な対応を約束するのであれば、訴えを下げてもいいと言っている。組織としても、穏便な解決を期待したいのだが」

 言葉にこそしないものの、「里穂を納得させて丸く収めろ」と促す圧力が伝わってくる。

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