空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
重苦しい査問室を後にし、厚い木の手製のドアを静かに閉める。
張り詰めていた空気から解放されたはずなのに、廊下に出た瞬間、別の意味で肌が粟立った。
部屋のすぐ脇、壁に背を預けて立つその影に気づいた瞬間、拓翔の眉が不快げに寄せられた。
「お疲れさま、拓翔」
鈴を転がすような甘い声。里穂は口元に手を当て、堪えきれないものを漏らすようにくすくすと笑う。
「……乗務に支障が出るほど精神的苦痛を受けている人間の態度には見えないな」
「あら。でも診断書は本物よ?」
さらりと言い放ち、肩をすくめる。
「私が泣いて頼めば、思い通りに動いてくれる男なんていくらでもいるもの」
「そうか。随分と安い手札だな」
冷ややかな一言に、里穂の表情がわずかにゆがむ。だが次の瞬間には、待ちかねていたかのように笑みを深めた。
「ねえ、どんな気持ち?」
里穂は低い笑いを漏らしながら、勝ち誇ったように言い放つ。
「これまで必死に積み上げてきたキャリアが、足元から崩れそうな気分は」
そうして一歩距離を詰め、小首をかしげてわざとらしく覗き込む。
「どんなに優秀でも、たった一人の女のせいで人生が終わるかもしれないなんて……滑稽だと思わない?」
「……」
「会社なんて所詮、保守的な組織よ。私が『傷ついた』って泣いて診断書を出せば、私の味方をしてくれる。だって、かわいそうなのは私だもの」