空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
駅直結の専用通路を抜け、タワーマンションのエントランスへ足を踏み入れた瞬間、仄香はそれまで伏せていた顔を上げた。
磨き上げられた大理石の床に、柔らかな間接照明が広がる。天井の高いロビーは音すら吸い込むように静まり返っていて、行き交う人影もほとんどない。
その奥で、ひっそりと佇むエレベーターが待っている。
どこまでも洗練されたその空間は、今の自分にはあまりにも不釣り合いで──まるで、別の世界に紛れ込んでしまったかのような感覚に陥った。
二十六階にたどり着き、玄関の鍵を開けて中へ入ると、そこには今朝のまま手つかずになった部屋が広がっている。
無言でソファに腰を下ろした瞬間、それまで押し込めていたものが一気に溢れ出した。
(迷惑……かけちゃった。あんなに良くしてもらった場所だったのに……)
職場で向けられた視線も、耳に残る囁きも、支店長に突きつけられた現実も。そして自分で選んだはずの結論も、頭の中で何度も繰り返される。
じわじわと広がる痛みが、思考を鈍らせていく。
一体どれくらいそうしていたのだろう。ふと視線を上げると、時計の針は十八時四十分を指していた。
あと少しで、拓翔が帰ってくる時間だ。
(急がなきゃ、拓ちゃんが帰ってきちゃう……!)
はっとして立ち上がる。何もできていないことに気づき、慌てて動き出した。