空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
改札を抜けて職場である旅行代理店に着くまで、いつもよりあっという間に感じた。
社員用の入り口から一歩足を踏み入れると、一瞬だけフロアの空気が揺れる。デスクに座っていた同僚たちの視線が一斉にこちらへ向くが、そこにあるのは露骨な悪意ではなく、どう接していいのか測りかねているような戸惑いだった。
「おはようございます」
いつもと変わらない調子で声をかけると、数秒遅れて、ぎこちないながらも笑顔が返ってきた。
「あ、桐生さん……おはよう。引っ越しは落ち着いた?」
「はい。何日もお休みをいただいてしまって、すみませんでした。……私の身内についても、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「ああ、いや……なんていうか、大変だね。色々と」
言葉の端に滲む遠慮と憶測に曖昧な笑みを返し、小さく頭を下げた。
「母の件については、支店長とも対応を相談済みです。個人的にも対処を進めていきますので、ご心配をおかけしないようにします」
そう付け加えると、相手はどこかほっとしたような、それでいて複雑な表情を浮かべた。
始業の時間が過ぎると、仄香はすぐに自席に向かい、淡々と引き継ぎ作業に取り掛かる。担当していた顧客のデータを整理し、進行中の案件についての備忘録をまとめていく。