空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
深く頭を下げ、もう一度謝罪の言葉を述べる。言葉を交わすたびに、ここでの日々が終わるのだという実感が、ゆっくりと追いついてくる。
説明がひと段落したところで、仄香はバッグにそっと手を添えた。
「あの……私からも、お伝えしておきたいことがありまして」
そう切り出しながら、中を探るように指先を滑らせた。
手に取ったのは、拓翔から預かった名刺だ。出入り禁止となっている母だが、今後も何も起こらないとは限らない。
万が一に備えて、弁護士の連絡先を託そうとした──そのときだった。
応接室の重い扉の向こうから、この静かなフロアには不釣り合いな、鋭い怒鳴り声が響き渡る。
『離しなさいよ! 私は母親よ、娘に会いに来ただけじゃない!』
心臓がドクリと跳ねた。聞き間違えるはずのない、ヒステリックな母の声。
咄嗟に立ち上がろうとしたが膝に力が入らず、足がすくんで動けない。長年植え付けられた恐怖は、頭で理解していてもそう簡単に覆せるものではなかった。
その場に縫い止められたように動けずにいると、外の騒ぎは警備員に制止されたのか、次第に収まっていく。怒声はやがて遠ざかり、小さくなった。
それでも、心臓の鼓動だけがいつまでも収まらない。
ほどなくして、支店長が応接室に入ってきた。