空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
当然のように言い放たれるその言葉に、心がすっと冷えていく。以前と何一つ変わらない、自分の都合ばかりを押しつけてくるその言動に、仄香はゆっくりと首を振った。
「……私は、もう戻らないよ」
静かに言い切ったその言葉は、狭い裏手の空間にはっきりと響いた。
「……戻らない? 何言ってるの、あんた」
仄香が拒絶したことがよほど意外だったのか、母の顔が、信じられないものを見るかのように歪んだ。
「ずいぶんと偉そうになったじゃない。そう……なら、これでどう?」
そう言って、足元に置いていた大きな紙袋から、乱暴に何かを引き抜く。それは実家を飛び出したときに持ち出せず、もう戻ってこないと思っていた仄香の通勤鞄だった。
捨てられていなかったことに驚きを感じた次の瞬間、母は高らかに笑いながらそれを逆さまにし、中身をコンクリートの床にぶちまけた。
「捨てようと思ったけど、使い道があって良かったわ!」
音を立てて落ちる財布や手帳が散乱する中、母はその中から一枚の古びた栞を拾い上げた。
仄香がずっと大切にしてきた、実家への唯一の心残り。かつて拓翔と過ごした時間に交わした大切な約束の証が、母の手で奪われる。
「このゴミ、大事なものなんでしょう? 壊されたくなかったら、今すぐあの男に電話して『家に戻る』って言いなさい!」