空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
「仄香!!」
連行されていく際、母がふと振り返る。その瞳には、初めて見る恐怖の色が浮かんでいたが、仄香は迷うことなく視線を外した。
代わりに、近くにいた警察官へ静かに歩み寄る。
「……こちらを、念のためお預けしてもよろしいでしょうか」
差し出したのは、懐に入れていた弁護士の名刺だった。
「母の件については、こちらの弁護士にすべて委任しています。今後の連絡は、こちらへお願いします」
状況を簡潔に伝えると、警察官は真剣な表情で頷く。
一度も自分に視線を向けられないまま淡々と告げられ、母の顔から血の気が引いていった。そして何かを悟ったように覇気を失い、うなだれる。
やがて足音が遠ざかり、辺りに静けさが戻った。
一人なった仄香は、手の中にある栞をそっと胸に抱いた。
心臓はまだ激しく打ち、胃のあたりが焼けるように熱い。家族を断ち切った痛みは、確かに残っていた。
それでも、涙は出なかった。
(……終わったんだ)
自分を縛りつけていた関係を、自らの意思で断ち切った。その痛みと同時に、確かな解放感が、静かに広がっていく。
これからはもう、背中を丸めて生きる必要はない。
自分を心から愛してくれる人がいる。帰る場所だと思える、あたたかな居場所がある。
仄香はゆっくりと息を吐き、空を仰いだ。その視界は大きくひらけ、きらめく光に満ちていた。