空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
すべてを終えてオフィスビルを出たとき、夕刻の風が火照った頬をやさしく冷やした。
(つかれた……)
精神的な疲労で足元がふわつく。退職手続き、そして実母との絶縁──一日にして重なった出来事の重みに耐えきれず、仄香がふらりとよろめいた、その時だった。
「仄香」
聞き慣れた、低く心地よい声に名前を呼ばれた。顔を上げると、ビルの前に停まった黒塗りの車の傍に、拓翔が立っていた。
「拓ちゃん?どうしてここに……」
驚きに目を見開く仄香へ拓翔はまっすぐ歩み寄り、その肩をそっと支える。
「連絡したけど返事がなかったから、まだこっちかなと思って迎えに来たんだ。俺の方の聞き取り調査が思ったよりスムーズに終わってね」
拓翔はそう言って、労るように仄香の髪に触れた。
「え……聞き取りって、調査ってどういうこと?」
「もう終わったことだから。仄香は気にしなくていいよ」
「………」
やわらかなのに、それ以上は踏み込ませない声音だった。おそらくこれ以上聞いたところで、答えてはくれないだろう。そう直感して息を飲み込み、そのまま彼に身を委ねる。
「さあ、帰ろうか。疲れただろ」
彼が助手席のドアを開け、仄香も促されるまま足をかけて乗り込もうとした、その瞬間だった。