空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜

 戸惑うだけの仄香を押し切るように、男性が強引にその手首へ指をかけようとした──その瞬間。

「She’s with me.(彼女は俺の連れだ)」

 低く、よく通る声が、きっぱりと割って入った。

「Don’t touch my wife.(俺の妻に触れないでもらえるか)」

 有無を言わせない一言と同時に、肩を強く引き寄せられる。指先にぐっと力がこもり、どこか余裕のない強引な力強さに、仄香の胸が激しく脈打った。

 見上げれば、グレーのトレンチコートを羽織った拓翔が立っていた。ほぼ一日ぶりに見るその姿は、空を飛んできたばかりの気配をそのまま纏い、わずかに張り詰めた空気を帯びている。

 声をかけてきた男性は拓翔の登場に一瞬驚いたように目を見開き、それから苦笑する。

「Oh, I didn’t know. Sorry.(それは知らなかったよ、ごめんね)」

 彼は軽く手を上げると、そのまま去っていった。

 拓翔は去っていく背中を一瞥した後、仄香へと視線を落とす。その瞳からは先ほどの鋭さが消え、とろけるような甘い熱が戻っていた。

「待たせたね、仄香。怖かっただろう。一人にしてごめんな」

 拓翔の声が頭上から降り注ぐ。やさしさを孕んだ瞳に安心感が湧き上がり、素直に体をゆだねた。

「ううん、全然平気だよ。フライトお疲れ様、拓ちゃん」

「ああ。仄香も、長時間の移動お疲れ様。空の旅はどうだった?」

「拓ちゃんが操縦してるって思ったら、すごく安心できたよ」

 そう答えると、拓翔はわずかに目を細める。

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