空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
「な、なに……?」
まさか自分に話が向くと思っていなかった。喉の奥で息がつかえ、思わず聞き返した声は強張っていた。
顔を引き攣らせる仄香など意にも介さず、里穂はどこか楽しげに口元を緩める。
「あんたさ、覚えてる?小さい頃にあんたがよく追っかけてた、小汚いガキ」
その瞬間、仄香の脳内が一瞬で真っ白になった。
一方で母は「ああ……」と記憶を探るように眉をひそめている。
「いたわね、そんな子。母親もいない団地住まいの分際で、いつも見窄らしい格好で我が家の周りをうろついて、本当に目障りだったわ。名前は……なんだったかしら?」
二人の前で、仄香はお盆を胸の前に抱えたまま立ち尽くす。指先に力が入り、木の縁が食い込むのに気づく余裕もない中、ただ鼓動だけがやけに速くなっていた。
母の声も、意味を結ばないまま遠ざかっていく。内側で鳴り続ける鼓動だけが、はっきりと響いていた。
そんな仄香の様子を眺めながら、里穂はゆっくりと唇の端を歪める。
「加賀美拓翔、でしょ?」
その名前が落ちた瞬間、視界がぐらりと揺らいだ。
「そんな名前だったかしら。それで、その男がどうしたの?」
「それがさあ、もうびっくりよ。前から名前だけは噂で聞いてて、なんか聞いたことあるな〜とは思ってて、今日初めて顔見てあいつだって気づいたんだけど……」
面白がるように言葉を重ねながら、里穂はわざとらしく間を置く。
「なんと、うちのエアラインの操縦士だったの!」
「……!?」