空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜

 母もまた、口元にうっすらと笑みを浮かべ、得意げに頷く。

「仄香、あなた聞いてなかったの?私は里穂に相応しい男って言ったのよ。身の程を弁えなさい」

「っ、そんな……!」

 かすれた声がこぼれる。お盆を抱えた腕にうまく力が入らず、指先から感覚が遠のいていく。

 同時に、長いあいだ大切に抱えてきた想いが、音もなくひび割れていく。

 ──いつか、拓翔に会えるかもしれない。

 そんな小さな希望さえ、容赦なく踏み潰された。

 視界が滲み、涙が頬を伝って落ちる。こらえようとしても止められず、その拍子に、手にしていたお盆が床に音を立てて落ちた。

「は?泣いてんの?うわ〜、マジでキモイんだけど」

 里穂の冷たい声が胸に突き刺さる。母も肘をつき、鬱陶しげにため息を吐く。その場に立っていることさえ苦しくなり、膝から崩れ落ちた。

(もう……やだ……)

 心の奥に押し込めていた悲しみが、止めどなく溢れ出す。声にならない嗚咽と共に仄香は床に座り込み、肩を震わせながら顔を伏せた。

(私はずっと……拓ちゃんに会いたくて……それだけのために、頑張ってきたのに…)

 心の中で繰り返す言葉は、どこにも届かないまま虚しく消えていく。

 咄嗟に踵を返し、廊下へと飛び出した。そして外に出るなり、両手で顔を覆った。どんなに声を殺しても、嗚咽だけは止まらなかった。

 涙がぽたぽたと落ち、服を濡らしていく。

 悲しみは誰にも届かないまま、ただ一人で泣き続けるしかなかった。

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