空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
「ねえねえ、仄香ぁ」
軽やかに弾む声が降ってくる。同時に肩を揺さぶられ、逃げ道を塞がれるような感触に抗えず、ゆっくりと目を開く。
見下ろす位置から覗き込む里穂の表情には、灯りを落とした室内でも隠しきれない高揚が滲んでいた。
「……なに?」
やっとの思いで声を絞り出すと、里穂はわざとらしく髪を後ろへはらい、にやりと笑った。
「なあに?その態度。今日のデートがどうなったか聞きたいかと思って、教えてあげようとしてるのに」
「………」
「わたし、拓翔と付き合うことにしたわ」
その一言は、あまりにも軽く、自然に落とされた。
何も返せないまま、視線だけが揺れる。それと同時に、周囲の音がゆっくりと遠ざかっていく。呼吸の感覚も、指先の温度も、少しずつ輪郭を失っていく。
内側にぽっかりと空いた空洞へ、思考も感情も、吸い込まれていった。
涙は出なかった。怒りも、悲しみも──何ひとつ感情が浮かばない。
ただ、静かに足元が崩れていく感覚だけが残った。
何かを言っているはずの里穂の声も、もう届かない。言葉は形を失い、ただの音になって遠くへ沈んでいく。
視界も音も、すべてが閉ざされていくように、暗がりに包まれていった。