空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
あれから数日、朝の光が差し込むたび、目を背けたくなるようになっていた。
食卓には、昨日と同じトーストと薄いコーヒー。普段なら質素な朝食に小言を浴びせてくる里穂だが、最近はよほど機嫌がいいのか、笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「仄香、聞いてる?」
名前を呼ばれて、仄香は流しに向けていた手を止めて顔だけを向けた。
これまで嫌味でしか話しかけてこなかった姉が、拓翔との交際を宣言して以来、やたらと話しかけてくる。その明るさが、今では痛いほど耳障りに感じた。
「昨日はね、拓翔とドライブに行ってきたの」
スポンジを持つ指先が、わずかに止まる。返事はせず、ただ、水の音に紛らわせるように淡々と皿を洗い続ける。
「連れて行ってくれた場所、夜景がすっごいきれいでさ。なんだか盛り上がって、手とかつないじゃった」
「……」
弾む声が、まるで他人の会話みたいに遠く響く。胸は確かに痛むのに、その感覚さえ、どこか自分のものではないようだった。
(……そうなんだ。よかったね)
口の中でだけ、言葉を転がしてみる。喉元まで上がってきても、そこから先は音の形をなさない。