空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
里穂がテーブルに肘をつき、艶やかなリップで彩られた唇を弧に動かす。
「拓翔ったら、私とのこと『運命かも』って言っちゃって。私がちょっと思わせぶりにしただけで簡単に落ちるんだから、男って単純よね〜」
言葉のひとつひとつが、拓翔がとっくに自分を忘れていることを示しているようで、胸に鋭い痛みが走った。
じわじわと、仄香の中に黒い感情が押し寄せてくる。けれど、仄香はその感覚に触れまいと、意識の底へ押し込んだ。
テレビの声も、スプーンが皿を打つ小さな音も、すべて遠くでぼんやりと響くだけだった。目の前で里穂が何かを話していることは分かる。唇が動き、笑って、言葉を紡いでいる。けれど、ひとつも耳には届かない。
世界は透明な膜に覆われ、色も音も、時間の流れさえも薄れていく。胸に押し込んだ感情を振り払うように、仄香は無の状態に身を沈めた。
息をしていることだけが、かろうじて生きている証だった。だがその感覚も頼りなく、いつ途切れてもおかしくない。嫉妬も、悔しさも、悲しみも──味わうことを拒むように、無理やり意識の外へ押し出す。
(もう何も、感じたくない)
呼吸の仕方を忘れたみたいに、胸の動きが止まる。ただ視界の端で光を受けて笑う里穂の表情だけが、はっきりと残った。
空っぽのまま、仄香はゆっくりまばたきをした。まるで世界そのものを拒絶するように、仄香はそこから距離を取った。