空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
結局、仄香は当日、里穂の代わりに弁当を準備することになった。
早朝、無言で体を起こし台所に立つ。冷蔵庫を開けると、買い揃えた食材が無機質に整列していた。
まな板の上で包丁がリズムを刻み、唐揚げの脂が弾ける。出汁で味つけた卵を溶き、焼き、巻く。そうして作ったはずのものが、仄香の手の中で、「里穂の用意した弁当」に変わっていく。
その動作すべてが、ひどく虚しく感じた。
「ねえ、それハートの形にできる?」
いつの間にか起きていた里穂から投げかけられた声に、仄香は一瞬だけ手を止める。
「……できる」
手にした卵焼きを半分に切り、片方をひっくり返してハートマークを作る。心の中では感じないようにしていたのに、その形を見た瞬間、胸が小さく軋んだ。
その後も、里穂は隣に立って細かく注文を出してきた。盛り付け方、色合い、ウインナーの形まで指示され、仄香は言葉を返すこともなく淡々と従った。
弁当箱におかずを詰めながら、ひとつだけ、蛸の足を増やしたウインナーを手に取り、ふと思い出す。
(……昔、拓ちゃんが作ってくれたやつ……)
小学生の頃、拓翔が持ってきた弁当を、二人で公園で食べた。おにぎりとトマト、ウインナーだけのシンプルなお弁当。
慣れない手つきで作ってくれた足の多いウインナーを、彼と一緒に笑いながら食べた。楽しかったはずの笑顔が、今はただ胸をえぐる。
じわりと涙が浮かぶ。溢れそうになるのを必死で堪え、思い出をそっと弁当箱の隅に詰め込んだ。