空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
夜明け前の薄暗い空気の中、仄香は静かに目を開いた。
リビングの片隅、自分に許されたわずかなスペースで身を縮め、布団の中で冷えた指先を握りしめる。
──今日は、拓翔が里穂の恋人としてこの家に来る日。
その事実が、鉛のように胸を押しつぶしてくる。
「……」
そっと手を伸ばし、枕元に置いた鞄を引き寄せる。奥にしまい込んでいた花の指輪の栞を取り出し、指先でなぞった。
少し前なら、こうしていれば幼い日の温かな記憶が心を宥めてくれた。けれど今、胸に広がるのは温もりではなく、重く沈む痛みばかりだった。
(私……どんな顔して、ここにいればいいんだろう)
栞を強く握りしめたまま、仄香はしばらく動けずにいた。
叶うなら今すぐにでも逃げ出したい。けれど、そんな勇気も、まとまった資金も、頼れる友人も今の仄香にはいない。母のせいで親戚とも疎遠になり、助けを求められる人はどこにもいなかった。
目の前にあるのは、逃げ場のない現実だけ。
やっとの思いで身支度を始め、洗面所で顔を洗い、薄く化粧を施す。
髪を整えながら鏡を見つめると、そこに映る自分はいつも以上に頼りなく、色を失って見えた。