空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
「拓翔が来るまでに玄関とリビングの掃除を終わらせて。塵ひとつ残すんじゃないわよ」
「……はい」
「ああ、わかってると思うけど、拓翔が家にいる間、あんたは邪魔だから顔を出さないでね。外へ出掛けるなりして、最初からここにいないってことにしなさい。いいわね?」
「………」
返事をする気力すら、もう残っていなかった。
ただ黙ってこくりと頷き、仄香は言われるがままに手を動かし始める。
埃を払って掃除機をかけ、部屋を整えていく。膝をついて床を拭いていると「邪魔」と声をかけられることがあったが、それも聞こえないふりをした。
やがて、里穂が浮かれた様子で拓翔を迎えに家を出る。その背中を見送り、言われた通りに頃合いを見て家を出る支度を進めていた。
しかし、エプロンを脱ぎかける仄香に、母から鋭い声が飛ぶ。
「ちょっと仄香、すぐに棚の奥に入っているティーセットを出してちょうだい。海外から取り寄せた、あのボーンチャイナよ」
「え……」
「それから冷蔵庫のケーキも。私たちが話に集中できるよう、すぐに並べられるように一式を揃えておきなさいよ」
その後も母は重箱の隅をつつくように、何かと小言を投げつけてくる。「埃が残ってる」「お湯の準備をしろ」と、次々と与えられる用事に応えているうちに、時間だけがじわじわと削られていく。
(……そろそろ出ないと。時間が……)
焦りを感じながら、ようやくエプロンを外そうとしたその時だった。不意に、玄関の外が騒がしくなる。