空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜

 煮えたぎるものを、理性の下になんとか押し込める。

「……ええ。よろしくお願いします。──『桐生』さん」

 できることなら、今すぐこの女を問い詰め、仄香を奪いに行きたい。だが自分があの「加賀見巧翔」だと名乗り正攻法でぶつかったところで、道が開けるとは思えなかった。

 内側に澱のような感情を抱えたまま、拓翔は柔らかな笑みを作る。

「美人だと評判の桐生さんと一緒に仕事ができる機会ができて、俺も嬉しいです」

 甘さを含む、品格を保ったトーンで告げると、里穂の頬がわずかに赤らんだ。

「評判だなんて。そんな、大袈裟ですよ」

「いえ、実際にお会いしたら想像以上に素敵な方で、驚きました」

 心にもないが、彼女の自尊心を満足させる言葉を慎重に選ぶ。

 里穂の視線が、拓翔の顔立ちとその肩書を値踏みするように舐めていく。拓翔はわずかに身を寄せ、声を落とした。

「……よろしければ、今日のフライトが終わった後、お食事でもいかがですか?……もちろん、二人きりで」

 誰にも聞こえない低い声で、秘密を共有するように誘う。里穂の顔には隠しきれない優越感と、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。

 本当ならば、こんな女と関わることすら汚らわしい。もし仄香があの日の約束を覚えていてくれて、この光景を知れば、どれほど深く傷つくだろうか。
 
 ……それでも、実行せずにはいられない。
 
 確実に仄香を救い出すためには自らを餌とし、この毒婦を利用する道しか残されていなかった。


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