空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜

 里穂を食事に誘い出してから、数週間が過ぎた。

 その間、拓翔は何度か里穂を連れ出し、徹底的に「理想の恋人」を演じ続けた。高級なフレンチ、夜景の見えるラウンジ、そして彼女を送り届けるポルシェの車内。

 席を引かれ、優しくエスコートされ、甘い言葉を向けられる。その一つひとつに、里穂は目に見えて機嫌を良くしていった。

「加賀美さんって、本当に素敵ですね。こんなにあなたを独占しちゃって……周りに嫉妬されないかしら?」

 助手席で、里穂が満足そうに髪を払うそのたびに漂う、鼻をつく香水の匂いが嫌悪を誘う。

 絡みつくように腕を寄せられると反射的な嫌悪が走り、皮膚ごと削ぎ落としたくなる衝動を、笑顔の奥に必死で押し込めた。

「ねえ。そろそろ『拓翔』って……名前で呼んでもいい?」

 ふと落とされたその声に、わずかに息が詰まる。

 その声は、十五年間片時も忘れたことのない、仄香の声にあまりに似ていた。

 だからこそ、苛立ちが強く滲む。高ぶる感情を沈めるように一度だけ深呼吸をして、拓翔は仮面を被り直した。

「……いいよ。じゃあ俺もこれからは名前で呼ばせてもらうよ、里穂」

「本当?嬉しい!なんだか、一気に距離が縮まったみたい」

 はしゃぐ女に、拓翔は一拍置いて言葉を続けた。



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