10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
そこに立っていたのは、一人の男だった。
高身長で、無駄のない洗練された動き。
歩くたびに、その場の空気が塗り替えられていくような錯覚に陥る。
鋭く、それでいて冷静な視線が、ゆっくりと室内を見渡した。
その瞬間、さっきまでのざわめきが嘘のように消え去る。
まるで、この人の前では余計な音を立てることすら許されないかのように。
「黒崎蒼です」
低く、落ち着いた声。
その一言が、静まり返った会議室の空気を震わせた。
たったそれだけなのに、心臓が強く打ちつけられる。言葉以上の何かが、その声には宿っていた。
圧倒的な存在感――それを、全身で理解させられる。
私は思わず息を呑んでいた。
この人が、新しい社長。
この人が、私たちの会社のすべてを握る存在になる――。
そう思った瞬間、胸の奥がざわりと揺れる。
恐怖なのか、それとも別の感情なのか、自分でもうまく言葉にできない。ただ一つだけはっきりしているのは、もう以前と同じ日常には戻れないということだった。
そして、その中心にいるのが――目の前に立つ、この男だということを。