10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
抑えきれないざわめきが、波のように会議室中に広がっていく。
誰もが困惑と動揺を隠せず、小さな声で確認し合う。
その名前を知らない人間なんて、この業界にはいない。
黒崎グループ――それは、私たちにとって常に背中を追い続けてきた存在であり、同時に決して追いつけない壁のような存在でもあった。
何度も競合し、何度も悔しい思いをしてきた、いわば“宿敵”。
その相手に、私たちの会社が飲み込まれるなんて、誰が想像できただろう。
胸の奥が、ひやりと冷たくなる。
「そして、本日より新社長が就任します」
部長の声が、ざわめきを断ち切るように響く。その一言で、再び空気が張り詰める。
誰もが息を潜め、次の瞬間を待っていた。
すると――会議室のドアが、静かに開いた。
ほんのわずかな音だったのに、それはやけに鮮明に耳に届く。全員の視線が、一斉にその入口へと吸い寄せられた。