10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



「それでは、今日はここで終了とさせていただきます。またよろしくお願いいたします」


佐藤さんがそう言って、静かに資料を片付け始める。

よかった。何事もなく終わった。胸の奥に張りついていた緊張が、ようやく少しだけほどける。

ほっと息を吐いた、その瞬間だった。


「白石さん、もしかして佐藤さんとお知り合いですか?」


隣で美織ちゃんが、何気ない調子でそう尋ねる。そして、目の前の佐藤さんの動きが、一瞬だけ止まる。ほんのわずかに。


「佐藤くんは、昔ここで働いていたことがあるんだよ」


部長が代わりに答えるように言うと、美織ちゃんは「そうなんですね!どおりで慣れてると思いました」と、納得したように笑った。

やめてほしい。これ以上、踏み込まないでほしい。

そんな思いが喉まで出かかるのに、当然それを口にできるはずもない。私は何でもないふりをして、ふぅと小さく息を吐き、トントンと資料の束を揃えた。

早くここから出たい。けれど、立場上、客より先に会議室を出るわけにはいかない。


「白石さん、久しぶり~!とかならないんですか?」


美織ちゃんの無邪気すぎる一言に、心の中で全力で叫びたくなる。

美織ちゃん~っ…!やめて~っ!

そう思いながら、そっと視線だけを上げると、そこにいた佐藤さんは、もう一度だけこちらを見ていた。

その顔には、さっきまでの完全な仕事の仮面ではなく、ほんの少しだけ昔の温度が混じっている。


「ははっ……仕事だから、顔に出すのもどうかなと思っていたけど」


小さく笑いながら、彼は右手を差し出してきた。

その笑い方。そのえくぼ。その仕草。全部。全部、昔のまま。


「またよろしくね、白石さん」


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