10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
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「はぁ……」
セントリック・グローバルコンサルティングとの会議が終わってからというもの、まるで堰を切ったみたいに、美織ちゃんからの質問攻めが止まらなかった。
逃げるようにしてフロアの端にある自販機まで来た私は、誰もいない空間にやっと一息つける場所を見つけたみたいに、壁に軽く背中を預ける。
「以前、佐藤さんと何かあったんですか?」――あの無邪気な声が、まだ耳の奥に残っている。
私はただ、「面倒見てくれてた先輩だったの」って、当たり障りのない言葉でごまかすことしかできなかった。
本当のことなんて、あの場で言えるわけがない。
自販機で買ったコーヒーのプルタブを開けて、一口飲む。ほんのり苦くて、少しだけ温かいその味が、胸の奥に溜まっていたものをゆっくり溶かしていく気がしたけど、それでも消えてくれるほど優しくはなかった。
“以前、佐藤さんと何かあったんですか?”――ねえ美織ちゃん、あなたエスパーになれるんじゃない?
何かあったも何も、何を隠そう、翔は私の元婚約者だ。
たった二年前、私を振って去っていった人。そして――私が、大切にできなかった人。
あのときの言葉も、表情も、全部がまだ鮮明に残ってる。
「白石?休憩中?」
不意にかけられた声に、びくっと肩が揺れた。振り向くと、そこにいたのは井口だった。相変わらず、社員証は胸ポケットに無造作に差し込まれている。
井口は私の様子なんて気にもしていないふうに、自販機の前に立って何かを選び、軽い音を立てて缶を取り出すと、そのまま私の隣に来た。