10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



今になって思えば、他にいくらでもやり方はあったのかもしれない。フルタイムじゃなくても、仕事はできるし、少しペースを落とすことだってできたはずだ。

それでもあのときの私は、「どちらも選ぶ」ことができなかった。いや、選ぼうとしなかったのかもしれない。

ただ、自分の中で一番大きかったものを優先して――その結果、翔を手放した。

私に、仕事の楽しさを教えてくれたのは翔だったのに。

その翔を、私は自分の手で遠ざけたんだ。


『梨沙は、ずっと仕事だけをして生きていくの?』――別れ際に翔に言われたその一言は、時間が経った今でも、まるで昨日のことみたいに鮮明に思い出せる。


あのときの翔の表情も、声のトーンも、全部が胸の奥に残ったまま消えてくれない。

その問いかけに、私はすぐに答えられなかった。ただ黙って、視線を逸らすことしかできなかった。

だってその瞬間、初めて気づいてしまったから。

翔を失った私は、本当に、仕事以外に何も持っていないんだってことに。

誰かと過ごす時間も、帰る場所の温もりも、心を預けられる存在も――何一つ、残っていなかった。

真っ暗な部屋に帰って、電気もつけずにそのままベッドに倒れ込む日々。朝になれば機械みたいに起きて、何事もなかった顔をして仕事に行く。

そんな生活を繰り返すうちに、感情がどんどんすり減っていくのが分かった。それでも止まれなかった。止まったら、全部が崩れてしまいそうで怖かったから。


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