10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
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マンションに帰ってからというもの、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
仕事のこと、翔のこと、そして――井口のこと。考えないようにしようとすればするほど、全部が順番もなく浮かんできて、余計にまとまらなくなる。
社長は今日は遅くなるって言っていたし、こんな日はもう何も考えずにお風呂にでも入ってしまおう。そう思って、私は早々にバスルームへ逃げ込んだ。広いバスタブにお湯を張って、ゆっくりと体を沈めると、少しだけ力が抜ける気がした。……でも、頭の中は全然静かになってくれない。
意を決して、私はそのまま湯船の中に潜った。耳の奥で水の音が広がって、外の世界が一瞬だけ遠ざかる。その感覚に期待したのに――浮かび上がってきたとき、残っていたのはやっぱり同じモヤモヤだった。
はぁ、と小さく息を吐く。
お風呂から上がって、タオルで髪を拭きながら洗面台の前に立つ。鏡に映った自分の顔は、なんだか少しだけ疲れて見えた。
黒崎社長と住み始めてからというもの、あの人の世話焼きっぷりに甘えっぱなしで、こんなふうに「疲れた」なんて感じること、最近はほとんどなかったのに。
……情けないな。両手で頬をむにっと持ち上げて、無理やり表情を作る。もっと、しっかりしなくちゃ。
そう自分に言い聞かせて、リビングへ向かうと――ふわっと、いい匂いが漂ってきた。
「……え?」
「梨沙。おかえり」
「えっ!帰ってきてたんですか!?しかも、ご飯まで…」
慌てて声を上げると、キッチンに立つ社長は、いつもの落ち着いた様子でこちらを振り返った。
今日遅くなるって言ってたのに。私が呑気にお風呂に入っている間に、こんな……。