10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「まず初めに、俺に婚約者はいない」
「…いない?」
「政略結婚なんて死んでも嫌だからな。ちゃんと好きになった人と結婚すると伝えてある」
伝えてある、というのは黒崎グループの会長である父親のことだろう。
それにしても意外だった。社長はもっと、感情より仕事を優先する人間だと思っていたから、そんな“好きになった人と結婚する”なんて言葉が出てくるとは思わなかった。
「あと、俺の婚約者がどうとか言ってたけどな、梨沙だってそうだろ」
「え?」
私!?
「セントリック・グローバルコンサルティングの担当。お前の元婚約者なんだろ」
その瞬間、頭が真っ白になった。なんで社長がそれを知ってるの。なんで。
「俺が知らないわけないだろ。取引する相手のことは大体調べてる」
「……っ」
じゃあ、全部知られてるの?翔と付き合っていたことも、婚約していたことも、別れた理由も全部。
「…か、会社の為とはいえ…そこまでする必要あるんですか」
声が震える。知られたくなかった。なんでか分からないけど、この人にだけは知られたくなかった。空っぽな自分を見透かされるのが怖かった。
社長は一度視線を泳がせてから、ふっと息を吐いた。