10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
会議資料に目を落としながら、私は小さく息を吐く。
……ほんと、どうかしてる。横にいる社長はいつも通り無表情で、何を考えているのか全然分からないのに。時々ふと感じる視線だけが、やけに熱くて。余計に心臓がうるさくなる。
……今日の会議、ちゃんと乗り切れる気がしない。
前回よりも踏み込んだ内容になっている分、誰もが慎重に言葉を選んでいるのが分かる。
正面のスクリーンには、翔――佐藤さんが用意した資料が映し出されていた。淡々とした口調で進められる説明。
……ちゃんと、仕事に集中しなきゃ。
そう思って資料に目を落とした瞬間、違和感が引っかかった。
――この数字、おかしい。利益率の推移。コスト配分。一見すると整っているのに、細かく見ていくとどうしても辻褄が合わない。
……なんで気づくの、今。喉の奥がぎゅっと締まる。
これを指摘すれば、佐藤さんの提案に穴があることになる。しかも、この場で。言えるわけない。言えるはずがない。
視線を上げると、ちょうど目が合いそうになって慌てて逸らした。
――無理。
そのときだった。
「この数値、前提条件が甘いんじゃないか?」
低く、よく通る声。会議室の空気が一瞬で変わる。黒崎社長だった。その一言で全員の視線が資料に集中する。佐藤さんも一瞬だけ言葉を止めた。
「どの部分でしょうか」
冷静に返しているが、ほんのわずかに間があった。社長は画面を指先で示しながら言う。
「このコスト配分だと、後半で利益率が崩れる可能性がある」
――やっぱり。同じところを見ている。
心臓が大きく鳴った。