10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「白石」
名前を呼ばれて、びくりと肩が揺れる。
「一度見てみろ」
逃げ場を塞がれた気がした。でも同時に、背中を押されたような感覚もあった。
「……はい」
震えそうになる声を押さえて立ち上がる。会議室の視線が一気に集まり、指先が冷たくなる。それでも資料の前に立つと、不思議と頭は冴えていった。
数字を追う。グラフを追う。違和感の正体を探るように一つずつ確認していく。
――やっぱり、ここだ。
「この前提だと、初期コストの回収が想定より遅れます。その場合、こちらの数値では利益率を維持できません」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。数秒の沈黙のあと、小さなざわめきが広がる。
視線が一斉に集まるのが分かるのに、翔の方だけはどうしても見られなかった。怖かった。あの人の表情を見たら、何かが壊れてしまいそうで。
でも――
「……確認不足でした」
そう言ったのは、翔だった。責任を認める、その短い一言。責めるような空気にはならなかったのは、その直前に社長が「全体の問題」として話を整理していたからだ。誰か一人を責める流れではなく、ただ“修正すべき課題”として処理されていく。