10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
議論はすぐに次の修正案へと移っていった。でも、私の中だけは違った。まったく落ち着かない。心臓がずっと速いままだった。
――助けられた。
そう思った瞬間、別の疑問が浮かぶ。誰に?翔を?それとも、私を?
会議が終わり、みんなゾロゾロと出ていく中、翔だけが会議室に残ったままだった。
「梨沙」
一瞬だけ、時間が巻き戻ったような錯覚に陥る。
「……助かった」
あの頃と変わらない声。変わっていないように聞こえるその声が、逆に胸を締めつけた。
「……仕事だから」
やっとのことで、それだけを返すのが精一杯だった。
それに、助けたのは――
「随分余裕だな」
低い声が割って入る。空気が一気に変わる。振り向くと、黒崎社長が立っていた。
「黒崎社長、ありがとうございました。噂に聞いていた通り、流石ですね。助かりました」
翔は、何気ない調子でそう言った。丁寧で、礼儀正しくて、完璧なビジネスの挨拶のはずだった。でもその言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに変わるのが分かった。黒崎社長の視線が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。
「それは、仕事だから当然だ。ただ、うちの社員を馴れ馴れしく名前で呼ぶのはどうかと思うが」