10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



議論はすぐに次の修正案へと移っていった。でも、私の中だけは違った。まったく落ち着かない。心臓がずっと速いままだった。

――助けられた。

そう思った瞬間、別の疑問が浮かぶ。誰に?翔を?それとも、私を?


会議が終わり、みんなゾロゾロと出ていく中、翔だけが会議室に残ったままだった。


「梨沙」


一瞬だけ、時間が巻き戻ったような錯覚に陥る。


「……助かった」


あの頃と変わらない声。変わっていないように聞こえるその声が、逆に胸を締めつけた。


「……仕事だから」


やっとのことで、それだけを返すのが精一杯だった。

それに、助けたのは――


「随分余裕だな」


低い声が割って入る。空気が一気に変わる。振り向くと、黒崎社長が立っていた。


「黒崎社長、ありがとうございました。噂に聞いていた通り、流石ですね。助かりました」


翔は、何気ない調子でそう言った。丁寧で、礼儀正しくて、完璧なビジネスの挨拶のはずだった。でもその言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに変わるのが分かった。黒崎社長の視線が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。


「それは、仕事だから当然だ。ただ、うちの社員を馴れ馴れしく名前で呼ぶのはどうかと思うが」


< 126 / 195 >

この作品をシェア

pagetop