10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
心臓が、やけにうるさい。
ドクン、ドクンと大きな音を立てて、胸の内側から焦りと緊張を叩きつけてくる。
呼吸を整えようとしても、うまくいかない。
その時、不意に――視線がぶつかった。
黒崎蒼と、目が合った。
その瞬間、全身の血が一気に引いたような感覚に襲われる。
逃げたい、と思ったのに、体は動かなかった。逸らさなきゃいけないのに、逸らせない。まるで見透かされているような、そんな錯覚に囚われる。
ほんの一瞬のはずなのに、その時間は異様に長く感じられた。
そして、はっきりと理解してしまう。
――逃げられない。
理由なんて分からない。ただ、その予感だけが妙に現実味を帯びて、胸の奥に深く沈んでいく。
私は慌てて視線を落とした。
それでも、完全に意識を逸らすことはできなかった。むしろ逆に、無意識のうちに彼の存在を追いかけてしまう。
足音、声、わずかな仕草、そのすべてが気になってしまう自分がいる。
怖いのに。関わりたくないはずなのに。それなのに――どうしても、目が離せなかった。
まるで、これから始まる何かに巻き込まれていくことを、どこかで理解しているみたいに。
そんな不穏な感覚だけが、静かに、確かに、私の中に根を張り始めていた。